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グイン・サーガ・ワールド一期のこと [グイン・サーガ・ワールド]

すこし前に、グイン・サーガ続篇プロジェクトを振り返ってみようと、書いたものです。

2009年5月26日、栗本薫先生が逝去されてグインの物語は130巻(未完)で途絶することになりました、が、アニメ版グイン・サーガの公開にあわせ出版された新装版『グイン・サーガⅧ 帰還』のあとがきに先生はこう書かれています。
「自分がもしかなり早く死んでしまうようなことがあっても、誰かがこの物語を語り継いでくれればよい。どこか遠い国の神話伝説のように、いろいろな語り部が語り継ぎ、接ぎ木をし、話をこしらえ、さらにあたらしくして、いろんな枝を茂らせながら、それこそインターネットが最初空想していたような大樹になってもよいではないか——」
この言葉を受けて、栗本薫/中島梓先生の夫君であり、グイン・サーガがSFマガジン誌上で始まったときからの担当編集者である今岡清氏が立ち上げたのが「グイン・サーガ・ワールド」という、いったん途切れてしまった木に接ぎ木をして新たな生命を吹き込むプロジェクトだったのです。

この企画をわたし宵野ゆめが知ることになったのは、中島先生が主宰していた小説教室の塾生用BBS(先生亡き後もサイトを残してくれていました)でした。2010年11月上旬に今岡さんから「グイン・サーガの外伝を書こうという人はいませんか?」と呼びかけがありました。すでに人選は進んでいたそうですが残りひとりを教室の人に相談することにしたそうです。募集要項(100枚ずつ4回の連載)や〆切(3ヶ月おき)など具体的なこともこのとき発表になりました。わりと急でしたが、わたしを含め二人の塾生が手を挙げて担当編集者さんも相談の上執筆者を決めたのでした。(ここらへんは「宿命の宝冠」のあとがきには書いていなかったかも…)

栗本薫先生の世界に接ぎ木をする、しかも久美沙織先生、牧野修先生という一線の作家と!緊張とプレッシャーで脳が膿んでいたと思います。(どのつく新人です、とても正気じゃいられません)シェア・ワールドということですから、もし舞台が他の先生かぶった場合には変更しなければなりません。が、草原(久美先生)、ノスフェラス(牧野先生)、沿海州(自分よいの)と打ち合わせもなく分かれたのは栗本ヤーンのみちびきのようです。このときから田中勝義氏と八巻大樹氏という力強い監修の協力も得ていました。設定に縛られると云われますが、グイン世界はまったく逆で、監修者のコメントから世界と登場人物をもイメージ豊かにふくらませることができました。この場で深く感謝です。そして3月11日一回目の〆切直前に起こった大震災を乗り越え、グイン・サーガ・ワールドは発刊したのでした。

 グイン・サーガ・ワールド1
 2011年5月5日 早川書房より刊行
 文庫(ムック/カバーがつかない様式)333ページ
 商品パッケージの寸法: 15x10,6x1,4cm

 幻の外伝「ドールの花嫁」栗本薫著
 十六歳となったアルド・ナリスは、王立学問所に入学し寄宿生活をはじめる。そこでキタイとタルーアンの混血で醜い疵のあるヤン・スーファンとまみえ、「…美しい王子さま、あなたもまた、いつか夜の闇の中でひそかに、ヤヌスとドールとがひとつものだということではないかと、そう考えたことがあるはずなのだ。もしそうだったら、ドールとは一体誰なのか、またもしそうでないのなら、ヤヌスがことさら双面であるいわれがどこにあるのかとね…」悖徳的な、悪魔が天使をたぶらかすかのよう語りかけられて…というお話しです。残念なことに冒頭部のみの未完ですが、耽美的な雰囲気や王立学問所にまなぶナリスのプライベートをかいまみられる貴重な作品と思います。
監修者のひとり八巻大樹氏は「ドールの花嫁」発見の経緯を語り、執筆時期は1984年の1~2月(本篇ではリンダとレムスがパロに帰還し、グイン・イシュトヴァーン・マリウスの三人が放浪を経てケイロニアに着いた頃)であろう、また「闇と炎の王子——ナリス十六歳」(グイン・サーガ外伝『十六才の肖像』)が書かれたもとになっているのではないかとも推察しています。

 「星降る草原」久美沙織先生
 ・草原の民たちの愛憎を描くミステリロマン 第一回 アルゴスの黒太子スカールの母、リー・オウというグル族の娘の蠱惑的なること。
 「リアード武侠傳奇・伝」牧野修先生
 ・ノスフェラスに暮らすセム族の冒険譚 第一回 グイン正史より少し未来、セムの旅芸人の禁忌を巡る物語(カタリ)。
 「宿命の宝冠」宵野(よいの)ゆめ
 ・沿海州レンティアの陰謀劇 第一回 パロ王立学問所から派遣された遊学生がレンティアの港で遭遇した《事件》とは…。

 「日記より」
 ——もし私が死んだら/パトラを全部/私といっしょに焼いて下さい/パトラは私の中に生まれ/私と共に生き/私と共に苦しみ/私と共に笑いました/パトラは私だけの/私一人だけのものですから
 ・パトラとは、中島梓先生が、夢や未来への野心やうちなる苦悩を語り得たゆいいつの日記(あいて)です。
 わたし(宵野)も日記を読んで衝撃をうけたひとりです。けれど同時に、中島先生の旦那さまが「表現にとりつかれたとすら言える一人の人間の、壮絶な戦いの記録として世に残されるべきものと」と考え、抜粋ながらも発表した意義を了解すると同時にひとつの思いを抱いたものです。知らなかった、そうとは全く思わなかった、と……

 「いちばん不幸で、そしていちばん幸福な少女」今岡清先生
 知られざる中島梓像に迫るエッセイ、第一回。



 グイン・サーガ・ワールド2

 2011年8月10日 早川書房より刊行
ISBN-10: 4150310432
ISBN-13: 978-4150310431

 遺稿「氷惑星再び」(導入部)栗本薫
 ・グイン・サーガ」の原型となった「氷惑星の戦士」(外伝22巻『ヒプノスの回廊』所収)の続篇。栗本先生は、高千穂遙先生の「美獣シリーズ」に、先にヒロイック・ファンタジーをものされた!とよく仰っていました。
 同時期に創作された本作の主人公も謎につつまれ、おのれの正体を知らない戦士という設定はグインをほうふつさせもします。
 監修者の田中勝義氏の冒頭解説を引用させていただくと、「ノーマン・シリーズには『アスガルン』『シグルド』など、グイン・サーガでも使用された単語が登場しますが、本作では何よりグイン・ファンならニヤリとせざるを得ない【あの名称】も登場します。未完ですが、魅惑的な登場人物と世界設定は、完成していれば一級のSF作品となったにちがいありません。

「星降る草原」連載第2話、幼いスカールが草原の王子として登場。
「リアード武侠傳奇・伝」第2話、スノフェラスのさらなる深奥が描かれます。
「宿命の宝冠」第2話、レンティア王家をめぐる陰謀が徐々に明らかに…。
「日記」中島梓先生
 ・二ヶ月で三千枚の小説を書くという、すさまじい執筆活動の陰で、人格障害にくるしまれていたことなどが明かされます。
「いちばん不幸で、そしていちばん幸福な少女」今岡清著
 ・中島梓の内面に迫るエッセイ、第2話。今岡さんは、梓先生の生前に「もし私の奥さんについて書くのなら、題名は『いちばん不幸で、そしていちばん幸福な少女』になるだろう」と云っておられたそうです。


 グイン・サーガ・ワールド3

 2011年11月10日 早川書房より刊行
ISBN-10: 4150310491
ISBN-13: 978-4150310493

「星降る草原」連載第3話、リー・ファ登場!スカールと幼い彼女の出会いを描いてくださって、久美先生、ありがとうございます。
「リアード武侠傳奇・伝」第3話、ついにサーガ最大の禁忌が…!(牧野先生ひどいっと思わず叫んでしまいました…私感です)
「宿命の宝冠」第3話、陰謀が引き起こすさらなる悲劇が描かれる。(宵野もひどかった…しかももっと殺す予定だったのでした)

「手間のかかる姫君」栗本先生の遺構(未完)、ユーモラスな初期グイン・サーガ外伝。(ナリスさまもイシュトも出てこない外伝をお書きになっていたとは…。本作主人公はイシュトヴァーンをずっと穏やかにした、一生をまっとうできる人物となる予定だったのかしら?)
「スペードの女王」伊集院大介シリーズ
・この作品について中島先生のお別れ会の折に講談社の方が口にされていました。タイトルから耽美な作風をイメージしていましたが、どっこい、伊集院さんといっしょにテレビ局の楽屋に紛れこんだ気分にもさせられるきわめて現代的な作品でした。殊に一条院春日やジョーカーという人物は、現在(2016年秋)のタレント界に似た人物を探せそうです。その時代の先頭で注視を集める人物を糸のように掬いとり物語に紡ぎあげる栗本ヤーンの手腕はさすがです。また冒頭では伊集院さんが引退をほのめかしたり、怪盗シリウスや「絃の聖域」に触れられており…もしかしたら「伊集院大介・最後の事件」を意図して書きはじめられたのだろうかと感懐も深いです。(未完が無念です)
「日記」
・お着物や、洋服や、外食や、本を買ったこと。21才の大学生らしい思いが綴られ、読み手はちょっとホッとします(笑)。
 ここに出てくるTwilight Seriesとは、トワイライト・サーガのことなのでしょう。時期的に合うし。中島先生の哲学への憧憬、それへの背反か照れ隠しのようにポルノ小説に精力をだす日々。(それは男女が演じるポルノグラフィーでなく、稲垣足穂的風流と好事あるいは野坂昭如の戯作を目指していたのだろうと推測できますが)

「いちばん不幸で、そしていちばん幸福な少女」
・中島先生の手がけたミュージカル・お芝居について今岡さんが解説し、その折々の感想を明かします。「ミスター!ミスター!」にはじまり「マグノリアの海賊」や「炎の群像」はグイン・ファンには感慨深い公演でしょう。しかし「天狼星」の舞台が中島先生にそんな大きな経済的負担をあたえたとは想像していませんでした。(実はわたしはちょっとだけですが舞台を(収支決算の部分で)手伝った経験があり「黒字を出すのがむずかしい、否とんでもない金食い虫」ということを実地で知っています)むしろこのエッセイは傍らでハラハラしている今岡さんに感情移入して読みました。(結果はたいへんだったけれど、舞台作りの中心で中島先生は苦しみや怒りの負担は大きかったけれど、その世界と一体化する…小説を書いているとき感じるようなエクスタシーもあったのではないでしょうか?そう感じる者もここに一名おります)舞台とは、楽屋裏がどんなにはちゃめちゃでも、幕が開いた瞬間から下りるまでの間に、特別な時間を昔王侯貴族が味わったように味わえる稀有の空間です。その空間には極めて魅惑的な魔物が棲んでいて、時に観客のみならず創り手の魂も魅入られてしまうのだ…と思ってしまうのです。



 グイン・サーガ・ワールド4

2012年2月9日 早川書房より刊行

ISBN-10: 4150310564
ISBN-13: 978-4150310561


「星降る草原」連載第4話、草原を襲う悲運とスカールの新たな旅立ちが描かれます。ハシクル…。
「リアード武侠傳奇・伝」第4話、最大の禁忌をめぐる争いが数奇な結末を迎えます。グインが…。
「宿命の宝冠」第4話、骨肉相食む陰謀がたどる悲惨な運命が描かれ…(悲惨すぎたので単行本で『救い』を足しました)
「日記」中島梓先生
 ・群像の新人賞(「文学の輪郭」として刊行)や、江戸川乱歩賞をとって輝かしい航海に乗り出したばかりの中島先生。その常軌を逸する多忙な日々は並の人間にはとうてい超えられそうもない…やはり特別な方だったのだなあと感慨をいだきます。
「いちばん不幸で、そしていちばん幸福な少女」今岡清著
 ・悲しいけれど深い愛情で結ばれた夫婦の物語と読め…ラストの一行ではなみだが止まりませんでした。


 これにて「グイン・サーガ・ワールド」第一期は完結しました。神田の早川書房本社近くで打ち上げも行なわれ、そのとき担当の阿部さんから二期は九月から始まることと、執筆陣に図子慧先生と五代ゆう先生が決まっていることなどを伺い、次は読者として参加だわ…と思っていました。(このへんは「サイロンの挽歌」のあとがきに書いております)が、しかし、四月にはいって阿部さんからメールをいただき、宵野も続篇執筆で連投することが決まったのです。
二期グイン・サーガ・ワールドについても続けて書いていこうと思っています。


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ガーゴイル

グインサーガはアフガンでの話である。
by ガーゴイル (2021-05-07 13:16) 

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